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『わしの眼は十年先が見える 大原孫三郎の生涯』城山三郎著を再読

 

こんにちは、にわです。
最近、倉敷や大原美術館について耳にする機会がたびたびあり、約20年前に読んだ、城山三郎さんの本『わしの眼は十年先が見える 大原孫三郎の生涯』を再読しました。 

  

十代のおわりから三十代前半にかけて、特定の小説家の小説やエッセイばかり繰り返し読んでおり、当時読んだ本は思い入れが強すぎて、まったくブログに書けずにいたのですが、書けるうちに書いておかなくては…と思い、書いてみることにしました。

 

 

城山三郎さんは、私の中で、伝記的経済小説を書く人、「小説」だから「ノンフィクション」ではない、と思っていたのですが、ブログを書くにあたり、Wikipediaを確認してみたところ、この本は、「ノンフィクション・評伝」にカテゴライズされていました。

 

昔、村上春樹さんと読者のやりとりで、とある村上さんの小説に登場する車(車に詳しくないので車種名は忘れました…)に、実際のその車種にはついていないパーツ(これも具体的な名称がやりとりされていたのですが覚えていません…)に関する記述があり、「その車種にはありませんよ」といった指摘がされたときに、村上さんは「この小説の世界のこの車種にはついているのです」というような回答をされていたことがあり、フィクションとノンフィクションについて考えるとき、いつもこのやりとりを思い出します。

 

フィクション・小説を読むときは、それがどれだけ事実のように書かれていても、それはある視点から書かれた真実ではあったとしても、事実ではないかもしれない、ということを頭の片隅において読むようにしています。

 

すこし話がずれましたが、この本では、大原孫三郎さんの子どもの頃のエピソードから、何を大切にしていた人で、何が好きだったのか、どのような実業家であったのか、倉敷絹織(現クラレ)の経営、さまざまな研究所がなぜつくられたのか、大原美術館はどのようにつくられ、絵画はどのように収集されたのか、そして自身「いちばんの傑作」と評する息子の總一郎さんの死までが描かれています。

 

絵画の収集シーンでは、美術に詳しくない私でも知っているような画家の名前が同時代の人物として登場してどきどきします。

 

この本では、孫三郎さんがメインなので、總一郎さんについては、多くは語られていませんが、それでも非常に興味をそそる人物として描かれています。總一郎さんの息子の謙一郎さん、さらにその娘の茜さんの誕生も、總一郎さんの晩年に際し登場します。

 

最近、目にした大原社会問題研究所に関するツイート。
この研究所がなぜつくられたのか、もこの本から窺い知ることができます。

 

前半のエピソードの多くは、岡山孤児院創設者の石井十次さんとの出会いや関係にページが割かれていますが、石井十次さんとの別れのあと、読み物としては…流れがよくなってきます。

 

石井十次さんのことを「泥沼」ではなく炎であり火であった、と述懐する場面があります。「火に近づけば、火傷もする。だが、火がなくなれば、どういうことになるのか…。」石井十次さんとの出会いがなければ、大原孫三郎さんが成した様々なこともなかったのかもしれない、あらゆることはつながっているのだ、と感じさせられます。

 

私はまだ倉敷にも大原美術館にも行ったことがないので、読んだ後に、再度、Voicyで倉敷や大原美術館に関するお話を聞いて、ぜひ行ってみたい!という気持ちを新たにしました。美術館近くの蕎麦屋と喫茶店エル・グレコにも行ってみたい。

 

 

 

ネット上のブックレビューに、『当時の経済学者が、「財を成したという意味では三井、住友、三菱に劣るが、財を用いて公共に資したという意味では、いかなる事業家よりも偉大であった」と絶賛』との記述がありますが、文庫の解説で神崎倫一さんが付けているタイトル「ノブレス・オブリージュ」という言葉は、大原家そのもののようです。資産をもつ家に生まれるというのは大変なことですね…。

 

学生時代、自分は、日本史や世界史の授業にあまり興味をもてなかったのですが、明治・大正・昭和初期に活躍された実業家たちの半生はとても興味深く、今とのつながりも想像しやすいので、義務教育では近現代史にもっと力を入れてほしいです。

 

totobigで6億円当たったら、仕事を即やめることにまったく迷いのない私ですが、城山三郎さんの描く、いち実業家の半生をとりあげた小説はとても好きで、もっと仕事に励まなくては、という気持ちにさせられます。次は渋沢栄一さんを扱った『雄気堂々』を再読しようかな。

 

耳学問派の方にも、ぜひ一度(あるいは繰り返し)、読んでいただきたい本です。

 

   

2023年2月吉日

 

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